温暖地でつくる日本の家..その①|静岡県浜松市の大石設計室は、民家工房法・伝統木工法を駆使した木造住宅・古民家再生を専門とした設計事務所です。「真壁造り」「土・紙・石などの自然素材」「住まいやすさ」など、古い民家に詰まったたくさんの知恵を受け継いだ「民家を継承した家」をつくり、次の世代に残していきたいと考える木造民家・古民家再生工房です。

温暖地でつくる日本の家..その①

2019.04.09

■住まいづくりに携わって..

 毎年何かしらのテーマをもって住まいづくりに取り組み始めて早15年が過ぎ、このあたりでいちど振り返りまとめてみるのも良いかと思い事例を紹介させていただくことといたしました。

 日本の住まいは環境と共存しながら、時代の変化に合わせながら生きてきました。オイルショックから断熱化(省エネ化)へ、躯体内結露から気密化へそしてさらなる断熱化へ、シックハウス問題から24時間換気&自然素材へ、大地震から耐震化へ、山の荒廃から木の家へ、そして温暖化からさらなる省エネへ。50年という短い時間に時代は流れ、住まいづくりも人の暮らしもめまぐるしく変化しています。

 私つくり手もそんな変化に合わせながら、高気密高断熱、高耐震、パッシブデザインや木の住まいなどなど新しい住まいづくりに取り組んできました。また、住まい手もどんどん便利になる生活と情報化社会のスピードに飲み込まれ暮らしています。

 そんな住まいづくりは耐震や断熱などが高度化され、つくり手も専門特化されてきていますね。暮らしも機械化され快適化されています。便利な暮らしはドアの前に立てば鍵が空き、部屋に入れば電気が付き、夜中でも昼間のような明るさで過ごすことが出来る。高度化され専門特化住まいづくりはどんな地震にもキズひとつない家を、どんな暑さ寒さにも影響を受けない室内環境を目指す。今はそんな流れでしょうか..

 でもちょっと待って..日本の家は、大地震には自らの荷重を落とし揺れから身を守り、太陽の光(熱)と木を燃やすことで暖を取り、また熱(光)を遮り風を通して涼を取る。壁や屋根は空気や湿気を通し躯体を守る。日没と共に部屋は暗くなり朝日と共に起き、窓の開け閉めにより暖涼を取る。そんな自然と乖離することのない、つくりと暮らしではなかったでしょうか。高気密高断熱にしたら通気や透湿がなくなっちゃうとか、昼夜の無い生活でのストレス解消のためのサプリメント...これでは本末転倒ですよね。

 短時間に進歩した高性能な住まいと便利な暮らしは、大切なものをどこかに置き忘れているのかもしれませんね。あまり難しいことはわかりませんが、つくりがあまり専門特化されることなく、構造や快適、省エネそして美しさなどが絶妙なバランスが保たれ、そこに住まう人の身体能力や人間のすばらしい順応性が奪われることの無い暮らしができる住まいが「エコ住宅」。きっとこれは今も昔も変わらないのかもしれませんが...

 

■温暖な地域では

 私たちの暮らす静岡県浜松市は、平均気温が16.3℃(Max20.8℃、Min12.7℃)、年の最高気温は39.8℃で最低気温は-4.9℃、平均風速が2.4m/sと、冬季には「遠州のからっかぜ」と呼ばれる風速が10m/sを超える西北西の風が吹きますが、年間の日照時間が2300時間程と恵まれた地域となります。降水量も2000mm程で全国ベスト10に入っている、そんな温暖な地域です。
 市街地中心から北へ車で1時間ほどのところには、天竜美林の山々が広がり天竜杉が豊富に使えます。また、中心街では首都圏と同様に密集地となりますが、車で5分10分走れば田畑もみられ、住宅用地は200㎡程度の区画であり駐車スペースやお庭もとれるような住環境となります。

 最近でこそ高気密高断熱と省エネをという声が聞こえてきますが、まだまだ本気モードが感じられないような、ちょっぴり温暖化ボケしたそんな地域かもしれません。もちろんこれは作り手も住まい手も共通したところです...

 こうした立地条件によっても「エコ住宅」の定義は異なってくるのでしょうが、私たち静岡県西部地方では、豊富な太陽の熱と光を取り入れ、天然乾燥された天竜杉を使い、外(お庭)ともつながりのある住まいづくりがエコ住宅の定義の根本のひとつだと言えるかもしれません。



pagetop