貫..
2021.11.22
貫...
最近の建物ではあまり見られなくなりましたが、古民家などで柱を貫き通す薄い板を「貫(ぬき)」と呼びます。
貫とは、柱や束などの垂直材に架け渡す水平部材。垂直材に水平部材を貫通させ楔(くさび)で固定され、木にめり込むことで高い変形性能を確保します。
寺院などの木造建築では、太い柱の傾斜復元力により変形性能を確保していましたが、大径木の木材が入手困難な事情も重なり、鎌倉時代に重源により中国の最新技術「貫工法」が伝えられたようです。ただ一般の民家ではそれ以前より貫に類似した工法は使われていたという説もあります。一般でも使われていた架構法だったことから、この貫工法という新技術が一気に広がったとも考えられているようです。
貫は柱や束などの垂直部材にあけられた穴に、水平部材を貫通させ、楔で固定をし取り付けるので「貫」と呼ばれているというわけです。
小屋組みで用いられる場合には、現代の小屋筋違いや振れ止めとほぼ同じ役割を持っています。
軸組(柱)で用いられる場合には、現代の筋違いのような役割を担っています。ただ水平材一本の耐力は大きくないので、三本四本と設置します(数を増やせばそれだけ耐力は大きくなります)。
一般的に入る位置で、下(地面)から根がらみ貫、地貫・足固め貫、鴨居までの間に胴貫、鴨居近くに内法貫、そして天井貫と呼ばれています。昔は貫の厚さが30mm(1.0寸)以上ありましたが、歴史が浅くなると厚さは15mm(0.5寸)程度となり、土壁竹小舞の下地のような役目になっています。
貫工法の耐震性は、柔らかい木と木がめり込むことで、繰り返しの揺れにも粘り強く追従します。この貫が高い変形性能を発揮するのは1/10radも変形したときです。ちなみに現代工法の筋違いは1/60~1/30程度のとき最大の力を発揮します。1/10radというと、建物が20~30㎝も変形した時ということになるのです。ただこの力を発揮できるのは、貫の厚さが30mm(1.0寸)以上必要になります。
伝統構法の古民家などは、地震で建物が揺らされるとまず土壁が地震の力を受け止め壊れることで力を逃がし、また脚元をずらすことでも地震の力を建物に入りにくくしています。そして最後に貫が力を発揮します。この貫のがんばりで建物が倒壊しないというのが伝統構法となります。貫が最後の砦となるのです。
だから「貫は絶対に切ってはいけない(止めてはいけない)」と言われています。
ただ変形性能が高いので「傾いても倒壊しない」かもしれませんが、耐えられる力自体が小さく、一度めり込むと戻りきらないことも考えられるので、地震の力(エネルギー)が一気に入ってくると倒れてしまうことも心配されます。最後の砦の「貫」に力を発揮させないような、耐震性能や耐震要素の計画も大切になりますね。
ということで、伝統構法の住まい、古民家再生の住まいに貫はなくてはならない存在と言えます。最後の最後までがんばって建物の倒壊をさせない貫工法の住まいお勧めします...