土..|静岡県浜松市の大石設計室は、民家工房法・伝統木工法を駆使した木造住宅・古民家再生を専門とした設計事務所です。「真壁造り」「土・紙・石などの自然素材」「住まいやすさ」など、古い民家に詰まったたくさんの知恵を受け継いだ「民家を継承した家」をつくり、次の世代に残していきたいと考える木造民家・古民家再生工房です。

土..

2020.12.24

 土...

今回は「土」を見直してみましょう。

土といえばまず思い出すのは土壁でしょうか...

建築材料として使われている土は、粘土質土(ローム)と呼ばれ粘土、シルト、砂などを含む混合物ですね。手づくりの焼成しない泥レンガ(アドベ)、圧縮成形し焼成しないソイルブロック、型枠内で締め固めて成形する版築が代表的なものになるでしょうか。

現代の工業化された建築材料と比べると、その土地土地でとれる土は規格化されているわけでなく、使い手の経験と知識が必要になること、乾燥に時間がかかることや収縮することや降雨や凍結に対して耐水的でないことなどが欠点としてあげられますが、粘土質土には「調湿機能」という大きな利点があります。また熱容量の大きさから蓄熱機能があることや製造エネルギーが小さく最後は土に返すことができるというところも代表的な利点のひとつですが、やはり湿度のコントロールをしてくれることが一番の魅力といえます。下記の図は、吸湿性の実験結果です。粘土質土の吸水量が他の材料に比べてずば抜けて大きいのがよく分かりますね。

        

この吸湿性は毛細管作用という水分の移動の現象で、開いた細孔構造を持つ材料は、水分を毛細管に蓄えたり放出したりすることができます。水分は湿度の高い方から引く方へ流れますので、このとき毛細管現象により土の中に吸い込まれていくということになるのです。溜め込まれた水蒸気はその後室内湿度の変化(低下)により土内部から外に拡散されることになります。ただし粘土質土を焼成されてしまうとこの機能は無くなってしまいます...

先ほど耐水的ではなく水と接すると膨張して弱くなると言いましたが、水蒸気の影響下では湿気を吸収しても膨張すること無く、固体のまままで剛性を保っています。

もう少し土の性質を見てみましょう

まず熱容量や熱伝導について。熱容量というのはその物体に熱の出入りがあったとき、温度がどのように移動していくかを表す値で、数値が大きいほど熱容量が大きく、数値が小さいほど熱容量が小さく「熱しやすく冷めやすい」ということになります。土壁を1とした場合、コンクリートが2、木材が0.5、グラスウール断熱材が0.1、鋼材が3という比較になります。

また熱の伝わりやすさを表す熱伝導率は、土壁を1とした場合、コンクリートが2.5、木材が0.2、グラスウール断熱材が0.07、鋼材が76という比較になります。熱容量の大きな土壁は、外気の温度が室内に到達するまでの時間が長くなります。この時間差で熱の減少をもたらしますが、断熱性能は温度の変動幅だけを減少させるということになります。

もうひとつ土のpH値も見てみましょう。粘土質土のpH値は7~8.5といわれています。pH値とは水素イオン指数と呼ばれ、アルカリ性なのか酸性なのかを表す数値ですね。  

    

数値は1~14で表され真ん中の7を中性とし、低い方が酸性、高い方がアルカリ性となります。たとえばカビの最適な生育範囲は5~6.5で生育限界は2~8.5、一般細菌では最適な生育範囲が6~7で生育限界は5~9です。粘土質土は弱アルカリ性であり、細菌類の最適な育成範囲を外れ細菌類の増殖は抑制されるようです。

 

そんな土の性質をまとめると、調湿性能の高い土壁は室内の湿度を一定に保ってくれ、外気の熱が室内に入ってくるのを遅らせてくれる。そして細菌類の増殖まで抑え込んでくれるというすばらしい建築材料ということがいえます。

そんな調湿性能を実測されたデータがありますので見てみましょう。下記の図が湯本家の乾球湿球温度の測定値です。温度が上がると乾球温度計の温度も上がります。湿球温度計というのは、温度計の球部をしめったガーゼで包んだ温度計です。湿度が低くなりガーゼの湿気が空気中に逃げるときの気化熱により低い温度を示すようになります。

    

図の中で外気の乾球と湿球の温度差を見てみると、日中温度が上がれば相対湿度が下がることになり、これによりガーゼの中の水蒸気が外気中に放出され、その際の気化熱によりガーゼ内の温度が奪われ湿球温度が下がります。これが朝方に室内の水蒸気の絶対量が変わらずに温度が下がれば、蒸発量は減ってくるので湿球温度は乾球温度に近づいてきます。

次に室内を見てみると、乾球温度と湿球温度の温度差が一日中一定であることが見られます。これは朝方に、室内の水蒸気の絶対量が変わらずに温度が下がれば、蒸発量は減ってくるので湿球温度は乾球温度に近づいてくるところが、湿球温度は日中と同じ温度差になっていますね。これは土壁の中に溜め込まれていた水蒸気が室内に放出され、その際の気化熱によりガーゼ内の温度が奪われ湿球温度が下がったということになります。まさに土壁が一日の中で水蒸気を吸ったり吐いたりして調湿しているということになります。

これはすばらしい機能だと思います。私たちは調湿建材を使い、設備機器を使い、建築的な工夫をし知恵を絞りお金を掛け温熱環境を整えてきましたが、特に調湿には苦労してきたのが事実です。調湿建材にしても設備機器にしても大きな製造エネギーを使い、メンテナンスも要し、解体時にも産業廃棄物としての処理や収集運搬に等にエネルギーを使うことになります。それらに比べると土は、その建設地の土を使い壁を作り仕上げ、雨水の浸入さえ防げばほとんどメンテナンスフリー、解体時には土に返すことも再利用することも可能です。

土壁は高価なものと思いがちですが、高価な設備機器や調湿建材と比べてもさほど違いは無いところです。工期については乾燥に時間が必要ですので乾式工法と比べるとに数を要しますが、木舞掻きに既製品を使うなどで、工期や金額を抑えることも可能です。

それでは実際にどのくらい土を塗ればいいのでしょうか。下記の図に厚みの違いによる吸湿速度と吸水量を見ることができます。

    

繰り返しになりますが多孔質な材料は、空気中の湿気を吸収し、空気中に湿気を放出する能力があります。湿度の高い空気中の湿気を吸い込んだ土は、湿度が下がってくると平衡含水率まで放出し続けます。この吸収と放出の速度と量の材料による比較を下記の図で見てください。ふたつの図から土の吸放出量の多さと早さがずば抜けていることが解りますね。そして塗り厚さは4センチ以上塗りたいことが見えてきます。実際にはボードに土を付けられるのは3~5ミリ程度となりますので、下地としては木舞を掻く、バンプーネットを張る、または木摺り下地に土を付けるということになります。

私もここ数年温熱環境を整えるべく住まい作りをしてきましたが、大きな設備機器や天井裏を這うダクトにどこか違和感を感じてきました。地球温暖化の影響からか、寒さと寒い季節の期間が減って来たこともあり、寒さに対する環境づくりには満足出来てきましたが、暑さと湿度、特に夏の湿気にはなかなか対処できないところが現状です。住まいの中にこれ以上の設備機器やダクトは増やしたくありません。そこでこの土の調湿性能と熱容量に期待していこうと考えています。伝統の知恵と技術を使ってよりよい環境の住まいを実現しませんか。「土に囲まれた暮らし」お勧めします...

  参考文献:土・建築・環境 エコ時代の再発見 、 伝統民家における温熱環境と現代住宅への応用に関する研究 より引用

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